脳と心理と、その使い方

悪いことが起きても、思ったほど長くは落ち込まない

感情予測とインパクト・バイアス

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一言でいうと

不採用、失恋、選挙の敗北。人は、こうした嫌な出来事が起きたら、自分は長く深く落ち込むだろうと予想する。だが実際に起きてみると、立ち直りは予想よりずっと速い。私たちは、自分の心が持つ「立ち直る力」を計算に入れ忘れるため、未来の感情を大げさに見積もる。

論文が実際に言っていること

「感情予測(affective forecasting)」——人が未来の自分の気持ちをどれくらい正確に予測できるか——を扱った研究だ。一連の実験で、著者らは一貫したズレを見つけた。人は、出来事が自分の感情に与える影響の強さと持続を、過大に見積もる。これを「持続性バイアス(durability bias)」と呼ぶ。

例が並ぶ。就職の面接に落ちた場合、恋愛関係が終わった場合、望まない選挙結果になった場合、大学教授が終身在職権(テニュア)を得られなかった場合。人は事前に「相当長く落ち込む」と予想する。ところが、実際にその出来事を経験した人たちに後で聞くと、幸福度は予想よりずっと早く元の水準に戻っていた。

なぜズレるのか。著者らの説明が「免疫の無視(immune neglect)」だ。心には、身体の免疫系のように、ネガティブな出来事を意味づけ直し、正当化し、乗り越える、いわば「心理的な免疫システム」がある。ところが人は、未来を予想するとき、この立ち直りの働きを計算に入れない。だから、落ち込みだけを見て、その後の自動的な回復を見落とし、影響を長く見積もる。

さらに皮肉なことに、この心理的免疫は、当人には気づかれずに働く。だからこそ、次に何かを予想するときも、同じ見落としを繰り返す。

だから、どう生きるか

「これが起きたら終わりだ」という予想を、割り引く。

これがこの研究の芯だ。何かを恐れて動けないとき、その恐れの多くは、悪い結果が起きた後の落ち込みを、過大に見積もることから来る。だが実際には、たいていの失敗から、人は予想より早く立ち直る。だから、「失敗したら立ち直れない」という予測を、額面どおり受け取らない。心には、思っているより頑丈な回復装置が備わっている、と知っておくだけで、挑戦のハードルが下がる。

逆に、良いことの効果も過大に見積もっている、と知る。

持続性バイアスは、悪い出来事だけでなく、良い出来事にも働く。「これさえ手に入れば幸せが続く」という予想も、同じように外れる。手に入れた喜びは、予想より早く薄れて、日常に戻る。だから、一つのゴールに幸福のすべてを賭けるのは、この点で危うい。手に入れた後の順応まで見込んで、期待を等身大にしておく。

AIに未来のシナリオを描かせるとき、感情の予測は特に外れると疑う。

いまの文脈では、こう延ばせる。AIに「この選択をしたらどうなるか」を尋ねると、もっともらしい未来像が返ってくる。だが、その中の「そのときあなたはどう感じるか」の部分は、そもそも人間自身が系統的に外す領域だ。AIも、あなたの心理的免疫の働きまでは織り込めない。未来の出来事の予測は参考にしても、「そのとき自分がどれだけ幸/不幸か」の見積もりは、実際より穏やかになる方向に補正して受け取る。

ここからは僕の飛躍だ

この研究が示すのは平均的な傾向で、すべての出来事に当てはまるわけではない。深刻な喪失やトラウマのように、回復が容易でないものもある。「どんな不幸からも早く立ち直れる」と一般化するのは危険で、この研究はそういう主張ではない。

「AIの感情予測を割り引け」は、感情予測の知見を今の道具に延ばした僕の解釈で、1998年のこの論文が述べていることではない。

それでも、人は未来の感情の強さと持続を過大に見積もる、そして自分の立ち直る力を計算に入れ忘れる、という中核は、多くの研究で確かめられている。恐れも期待も、実際より穏やかに着地する、と見込んでおくこと。それがこの一本の使いどころだと思う。

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