脳と心理と、その使い方

「あとで調べられる」と思った瞬間、脳は覚えるのをやめる

グーグル効果(デジタル健忘)

紹介動画は準備中

一言でいうと

「この情報はコンピュータに保存される」と伝えられただけで、人はその中身を覚えなくなる。代わりに、それがどのフォルダに入っているかをよく覚えている。脳は外部の記録装置を、自分の記憶の一部として扱っている。

論文が実際に言っていること

4つの実験がある。

まず、答えにくい雑学クイズを出されると、人はコンピュータ関連の単語に対する反応が遅くなった。ストループ課題の干渉である。「分からない」と思った瞬間、意識が勝手にネットの方を向いている。

次に、被験者に短い事実をタイプさせ、片方には「これは保存される」、もう片方には「これは消去される」と伝えた。消去されると言われた側のほうが、内容をよく覚えていた。保存されると言われた側は、覚えるという作業を省いていた。

さらに、それぞれの文をどのフォルダに入れたかを聞くと、文の中身は思い出せないのにフォルダ名は思い出せる、という人が出てきた。記憶されていたのは情報そのものではなく、情報の在り処だった。

著者らはこれを、以前から知られていた「交換記憶(transactive memory)」の延長として説明している。人は昔から、記憶を他人に外注してきた。日付に強い友人、機械に強い同僚。インターネットは、その相手が人でなくなっただけである。

だから、どう生きるか

覚えたいものは、「これは自分しか持っていない」状態を意図的に作る。

脳が記録をやめるのは怠慢ではなく仕様だ。外に置けるものを内に持たないのは、有限な容量の合理的な使い方である。責めても仕方がない。

問題は、その仕分けを自分で決めていないことだ。今は、AIに聞けば答えが返ってくるという前提が常時オンになっている。つまり、ほぼ全ての情報について脳は「保存しなくていい」と判断し続けている。判断しているのはあなたではなく、環境である。

だから、順番を逆にする。AIに聞く前に、まず自分の頭から出す。出せなかった、という体験を経てから答えを見る。同じ答えを見ても、探しに行った後に見たものは残り方が違う。

そして、外に出したものは、堂々と外に置く。

この研究の裏返しの読み方はこうだ。どこにあるかさえ覚えていれば、中身は持たなくていい。全部を自分の頭に入れようとするのは、脳の設計に逆らっている。

決めるべきは「何を覚えるか」ではなく、何を覚えないと決めるかのほうだ。覚えない対象を明示的に選んだ人だけが、残った容量を使える。

ここからは僕の飛躍だ

この研究は 2011 年のもので、対象は検索エンジンである。AI は検索よりさらに強い外部記憶で、しかも「探す」手間すら消す。同じ現象がより強く出ると考えるのは自然だが、それは僕の推測であって、この論文が示したことではない。

実験課題はどれも短い事実の暗記だ。理解や判断、技能の習得についても同じことが起きるかは分かっていない。

それでも、「後で手に入る」という見込みだけで記憶の成績が変わる、という一点は測定されている。AI を開いたまま何かを学ぼうとしている自分には、効く指摘だと思う。

シェアXで共有

関連する論文